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一人の名古屋市民が「地域委員会制度」「減税日本」に対する疑問をまとめるサイトです。(since 2011/3/3)

「正しい経済学」が導く減税の意味(後編)

追記(12月20日 9時50分):昨夜、当 Ameba ブログでサーバメンテナンスがあったようで、意図せずに20日分が下書き状態で表示されてしまいました。校正等がなされておりませんので、それらの作業が終了するまで一旦、非表示とします。
 コメントをいただきましたが、文の趣旨は変わりませんし、コメントも保存してありますので、表示化した際には復旧できると思います。( Ameba ブログの仕様によりできなかった場合は申し訳ない)

追記(12月20日10時30分):校正等が終了しましたので再度表示いたします。

 さあ、我ながら面倒なことを始めてしまったと、半分後悔をしつつ。昨日の続きをご紹介します。

公共経済学 (Y21)

公共経済学 (Y21)

 参考文献としては、麻生 良文教授(同研究室)の「 公共経済学」をお勧めしますが。たまたまネットに転がっていた資料。

 (クリックするとダウンロードが始まるので注意)ここ「減税の効果 公共経済論? No.4」を参考にさせていただきます。

 とりあえず、振り返り等は無しにして昨日の続きの7ページ目をご覧いただきましょう。
「均衡産出量の決定(1)」として、昨日も話した「ケインジアンモデル」が提示されています。
 各文字の説明をすると。
 Y:生産量(総産出量、これは国民総所得に等しく、総需要とも等しい)
 C(Y−T):消費(Consumption)、T:税(消費は生産量から税を引いたもの)
 I(r):投資(投資の量は実質利子率によって増減する)
 G:政府支出

日本語で表すと。
 生産量 = 消費(生産量ー税)+投資(利子率)+政府支出

 言葉で表すと、「生産量とは、消費と投資と政府支出の和である」という意味になります。このページではYがYdとYsの2種類がありますが、どうもYdの方は「総需要」Ysの方は「総産出量」を表しているようです。※1

 ここでは、c(Y−T)を解いてみせています。

Y = C0 + c(Y-T)  + I + G  ・・・①カッコを展開します
Y = C0 + cY -cT + I + G  ・・・②Yについては左辺にまとめます
Y-cY = C0 -cT + I + G   ・・・③左辺をYでまとめます
Y(1-c) = C0 + I + G -cT  ・・・④両辺(全部の項)を (1-c) で割ります

Y=\frac{( C0 + I + G)}{(1-c)}- \frac{cT}{(1-c)}   ・・・⑤(1-c) について整えてみます


Y  = \frac{1}{(1-c)}( C0 + I + G ) - \frac{c}{(1-c)} T


 というような操作で7ページ目の一番下の式に展開されます。※2
 (種も仕掛けもありませんが、この式が重要な意味を持ちます)

 8ページ目の図は5ページの図と似ていますが、縦軸はYd:総需要です。
 横軸は国民所得となります。Y*:均衡国民所得(Ys:総産出量)です。

 総需要=総産出量とすると、Yd と Ys の関係は1:1となります。
ですので表では原点を通る45度の直線で表されます。
Ys は、この45度の直線の上にあると理解してください。

 また、Yd = C +I +G ですから、C0 から角度 c で表される直線となります。
Yd は、C0から角度 c で示された直線の上にあります。

 Y0 の位置では、Yd は Ys よりも上にあります。 Yd :需要>Ys:供給となります。・・・場合A
 Y1 の位置では、Yd は Ys よりも下にあります。 Yd :需要<Ys:供給となります。・・・場合B

 場合A:
 Yd :需要が多い(図のY0のような)場合は、需要に対してYs :産出量が少ないのですから、産品の価格が上昇します。そして産出が喚起されて需要を満たすようになり、やがてY0であった所得がY*に移動します。つまり、国民所得としては増える方向に向きます。(潜在需要が満たされるので、全体として所得が増える)

 場合B:
 逆に、Yd :需要が少なく、Ys :産出量が多いような状態(図のY1のような)場合には、余った産出量は在庫となって市場に滞留し、販売が滞ります。つまり、国民所得としても高い位置(Y1)から均衡点(Y*)に落ちてきます。国民所得として減速する局面を表します。(供給過多)

 この図の E が、需要と供給のバランスしているポイントで、その時の Y(Y*)が「均衡国民所得」となります。

 9ページ目の話題は論点がずれるので割愛します。

 10ページ目の「乗数効果」が大切です。
 ここで、10ページの説明の為に、11ページ目をご覧ください。

 11ページ目「乗数効果(2)」です。この図は、8ページの図にΔGだけ離れた上に、角度 c の直線を書き加えたものです。

 角度 c の直線は、C + I + G であると示されていました。ここでGについて、ΔGだけ増やしてやると、どういうことが起こるでしょうか。
 直線はΔGの分だけ上に上がっていきます。
 そうすると、Eのポイントで均衡していた需要と供給は、Fのポイントまで押し上げられます。すると、Eのポイントにあった国民所得(Y0)も Y1 の位置まで押し上げられるのです。

 つまり、政府支出GをΔGだけ増やしてやると、国民所得はΔY(Y1-Y0)だけ増えるということになります。

 そして、ここが大切なのですが、Yd を求めたこの直線は、角度 c だけ傾いています。45度よりは若干、傾きが小さくなっています。ですので、政府支出の増加分ΔGよりも、国民取得の増加分ΔYが大きくなっています。

 つまり例えば、財政出動で1兆円の政府支出を行うと、国民所得では1兆円以上の増加を期待できるということになります。

 ここで10ページに戻ってみてください。

 均衡国民所得を求める式は Y  = \frac{1}{(1-c)}( C0 + I + G ) - \frac{c}{(1-c)} T でした。

 この式から政府支出と国民所得の部分だけを取り出してみると。
 \Delta Y=\frac{1}{(1-c)}\Delta G となります。
 この限界消費性向 c に具体的な数字を入れてみましょう。

 c = 0.6 である場合。 Y=\frac{1}{(1-0.6)}G  → \frac{1}{0.4}G 2.5G
 この場合、政府支出が1兆円増やされると、国民所得は2.5兆円増えることが期待されます。
 c = 0.8 である場合。 Y=\frac{1}{(1-0.8)}G  → \frac{1}{0.2}G5G

 この場合、政府支出が1兆円増えると、国民所得は5兆円も増えることになります。限界消費性向は1の時に、1兆円の財政出動が、1兆円の消費に回される場合を言います。
 0.6 であれば、4割は貯蓄に、0.8 であれば2割が貯蓄に回ってしまうことを想定しているのですが、それでもここまで国民所得を引き上げる効果があるのですね。


 さて、では税額の操作はどのような効果をもたらすでしょうか。
 同じように均衡国民所得を求める式から、T:税と国民所得の部分だけを取り出してみます。
 \Delta Y=\frac{c}{(1-c)}\Delta Tとなります。項が違うので、分母にも c が乗っています。

 同じように c = 0.6 である場合を計算してみましょう。

 Y=\frac{0.6}{(1-0.6)}T  → \frac{0.6}{0.4}T1.5 T あれ?

 c = 0.8 の場合。 Y=\frac{0.8}{(1-0.8)}T  → \frac{0.8}{0.2}T4T となります。

 つまり、税額を1兆円下げてみたばあい、限界消費性向が 0.6 であれば国民所得を引き上げる効果は 1.5 兆円となります。
 同様に、限界消費性向が 0.8 であれば 4兆円ということになります。

 11ページが政府支出と国民所得の関係を表す図でした。そして、12ページが減税と国民所得の関係を表す図となります。

 これらの結果をまとめてみると、13ページの表となります。※3

<結論>
 政府支出も、減税も国民所得を増やす効果があります。
      ― 良いですね、国民所得をバンバン増やして経済を活性化させましょう!

 その効果は限界消費性向によって影響を受けます。
 限界消費性向が大きいほど、乗数は大きい。
      ― 例えば減税や補助金を配る場合でも、貯蓄に回るのではなく、その金額を消費に回して、経済に刺激を与えてくれた方がいいのです。
 
 そして、
 政府支出乗数は、減税乗数よりも1大きい。という結論が出ました。※4

 つまり、条件が同じであれば、減税よりも政府支出の方が効果が高いという結論が出ました。

 これは、リチャード・クー氏が「日本経済を襲う二つの波」で、

「減税」に比べ「公共事業」は全額が需要創出につながるので単位当たりの財政赤字に対して景気浮揚効果が最も大きいのである。(同書p.122)
とおっしゃっていることと符合します。(というよりも、財政やら経済学の常識だと思います)※5

 「でも、減税も経済刺激効果は間違いなくあるのではないか」という人がいるかもしれません。この減税は「他の条件を同じにした場合」であることにご注意ください。
 河村式減税は、「減税の原資(平成22年度161億円)は全て行財政改革で捻出すること」としていますね。(減税日本:市民税10%減税について)つまり、上で言う「政府支出」を削減しているのです。この差額分、確実に経済を減速させます。

 まだ、市債を発行して減税をした方が間違いなく経済は活性化します。
 (しかし、そんな財政規律のない政策は無茶苦茶です)

 以上のように、地方自治体において、歳出削減をして税を住民に返すという減税政策は、経済効果という面においてはマイナスに働きます。※6 ※7



※1:「公共経済学 (Y21)」においては、p.222 の式(11.1)を参照してください。ここでは「Y=AD」と表記されて、Yは 総産出量、ADは 総需要(Aggregate demand )となっています。

※2:この辺りの式の展開は大丈夫ですよね?幸いそんなにややこしい展開は無かったと思いますけど、もしも判らないところがあったら、匿名でコメントをください。

※3:14ページから16ページには、この「乗数効果」が何故発生するか。「波及効果」を詳細に示していますが、論点がずれるので触れません。

※4:「政府支出乗数は、減税乗数よりも『1』大きい」理由は。
係数 \frac{1}{(1-c)}\frac{c}{(1-c)} の差を求めれば理解できます。

     X =\frac{1}{(1-c)} - \frac{c}{(1-c)}
     X =\frac{(1 - c)}{(1-c)}
     X = 1

※5:校正中、ここまでの議論とこのリチャード・クー氏の主張とは論拠が異なることに気が付きました。書いている最中は気が付かないものですね。

 この一文は、そもそも政府支出と、減税について、限界消費性向の条件が同じであろうとも乗数効果が異なるので政府支出のほうが経済効果として高い効果が期待できるという主張です。

 リチャード・クー氏のこの主張は、減税は限界消費性向が1以下であるが、「『公共事業』は全額が需要創出につながる」つまりは、政府支出は限界消費性向が1であるといってみえます。

 勿論、政府支出というのは様々な事業が行われるわけですから、それがなんの事業も伴わずに支出だけされて貯蓄に回るとは考えにくい事です。ですが、ここでは、他の条件を揃えてみても政府支出の方が減税よりも乗数効果が高いという結論に揺るぎはありません。


 更に、この資料でも触れられる「2期間モデル」の展開では減税政策はもっと不利になります。
減税を受ける層は、そもそも納税できるだけの資力があるわけです。
また、これらの層は「減税」という政策がなされた後に、「増税」という政策が来ることを予想します。ですので、減税で返された税額は貯蓄に回される傾向が高いのです。

 1)そもそも、政府支出の方が減税よりも乗数効果が高い。
 2)政府支出の場合、減税よりも限界消費性向が高いことが期待できる。(クー氏の主張では1)
 3)減税は限界消費性向が高い低所得者層よりも、それが低い高額納税者に向けた支出で、
   ここでも経済効果が鈍る要因となっている。
 4)減税政策によって、将来負担を予想した層は減税額をこの将来負担に備えるために貯蓄する傾向が高い。

日本経済を襲う二つの波―サブプライム危機とグローバリゼーションの行方/リチャード・クー

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※6:名古屋市の行った「三菱UFJリサーチ&コンサルティング」によるシミュレーションの結果は、減税に若干のポジティブな効果があると結論が出ましたが、これには「歳出削減」の負の効果が組み込まれていません。
 また、市内人口の増加が経済成長にポジティブな効果をもたらしますが、このシミュレーションにおいては統計的傾向としての市内人口の増加が前提とされています。

追記(12月21日):某氏から突っ込みのメールが来た。「同シミュレーションにおいては、ちゃんと、政府消費と政府投資が削減されている。「2.1 シミュレーションの前提について」を見ろ、タコ!以前(8月30日)のフローも危ないと心配したが、同シミュレーションの9ページ目の因果フロー図の左上にちゃんと政府消費と政府投資が加えられているだろう。アホ!」という貴重なご意見であった。

議論の結果「2.3.2 シミュレーション結果が過大評価している可能性について」でも
「本シミュレーション結果が、政府支出の削減を伴う市民税減税の経済効果を、過大評価している可能性の1つとして付記する」と自身注記していることも踏まえ、過大評価の可能性は留保するものの、

私が上で書いたような、「「歳出削減」の負の効果が組み込まれていません。」という記述は、明らかに事実誤認であると訂正いたします。

※7:17ページ目以降の議論も面白いのですが、よくご覧ください。
 「減税乗数 政府支出一定、減税」と書かれています。
 減税をして、政府支出は一定のままですから「どちらも財政赤字の発生」となります。
 政府支出一定であれば、減税は経済刺激策となりえますが、その減税財源が政府支出の削減で賄われる場合、政府支出の方が減税よりも乗数効果が高いのですから経済効果にはマイナスに働きます。

 また、これ以降の議論では、減税は政府支出一定の前提で議論が進みます。
 (つまり、歳入が増えるか、公債の発行が認められたような場合を前提しています)
 歳出を削減してまで減税を行うことは、上記の様に明白に経済政策としてマイナスの効果しか生まないわけですから、議論の対象とするのも無駄なのでしょう。
 ですから、昨日のエントリーで書きましたように、これ以降の議論を検討する事は「河村流減税」を考慮するうえでは意味がありません。



追記(2014年10月30日):
こんな動画を見つけました。
https://www.youtube.com/watch?v=55O04o_bzgI